いつも最悪の事態を想定する。そうしていれば多少の不幸には動じないでいられるような気がして。まぁ、実際に遭遇したら動じると思うんだけど。でも常に「まぁあたしは運悪いからなぁ」とか「やることなすこと裏目に出るようにできてるからなぁ」というような気分で物事に当たっている感は否めない。『超』のつくネガティブシンキング。他人にアドバイスするとき、あたしはどんな不幸もとるに足らないコトのように言う。そういうようにしている。自分がその立場だったら、こういう風に考えて行動したいなぁと思う事をそのまま言う。馬鹿みたいにポジティブシンキング。自分が実行できるわけでもないのに。アドバイスされたほうは、あまりの楽観的な主張に呆れたり驚いたり感心したり励まされたりしてくれる。実行不能そうな無茶を言うときは、責任を取りたくないときだと思う。たぶん、あたしはあらゆる責任から逃げたがっている。あたしは自分に嘘をつくクセがある。そしてあたしはあたしの嘘に目を瞑りがち。
話が逸れた。
交差点を通過するとき、歩いていれば直行する道路から来る車が停止せずに突っ込んでくる事を思い、運転していれば対向車が無理な右折を仕掛けてくる事を思う。脇を走る自転車がふいに横断しようとしたり、横断歩道のないところを無理矢理渡ろうとしている人がこっちを見ながら車の前に歩を進める事を想像する。食堂で下膳しつつ、つまづいてテーブルについている人の頭上に残飯をぶちまける事を思い、ティーサーバーから熱湯がはねて火傷する可能性を思い描く。階段を下りながら足を踏み外して踊り場に倒れる自分を想像する。通過する電車に巻き込まれることを思う。鋏を使うときはそれが咽喉を掻き切ったら痛いだろう、と。
そんな想像を巡らせたあと、あたしはよく自分を咬む。指を、腕を、始めは軽く、徐々に強く、最後には歯が喰い込んで後にどす黒い紫色の点が歯形に並ぶくらいに。それから思う、痛いな、って。こんな痛いの嫌だな、って。きっとそうやって正気を保っているんだ、と思ったり、する。